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INTERVIEW
SPECIAL Vol.1

絵本作家 スギヤマカナヨさん

『あかちゃんは おかあさんと
こうして おはなししています』

 2010年に出版された、スギヤマカナヨさんの絵本『あかちゃんは おかあさんと こうして おはなししています』。赤ちゃんとお母さん、お父さんをテーマにしたのは、この絵本が初めてだったそう。この8月と9月には都内2ヵ所の絵本専門店で、この絵本の原画展が初めて開催されます。出版から10年以上の時を経て、当時の制作秘話を語っていただきました。

子育ての心を整え、お母さんにエールを! という想いから生まれた絵本

 この絵本を出版した当時、上の子は10歳、下の子は3歳になる前でした。最初の子育てからまた新たに子育てを始めて、少し冷静になって気づけたり、少し引いたところから見られたりしたような気がします。それまでにも「赤ちゃん絵本」は作ったことがありましたが、「お母さんにエールを!」というテーマで作ったのは、この絵本が初めてでした。

 うちの夫は子育てに協力的ではありましたが、子育てしているときってどうしても「孤独感」とか、「この感じ、いつまで続くんだろうな…」というような感覚がありますよね。しんどくて、わからなくて、どうしたらいいのっていう思いも…。赤ちゃんは「こうしてほしい」と言葉では伝えられないので、ひたすら目で見て、耳をすませて、さわって、嗅覚や触覚などすべての感覚を駆使して子育てするしかないわけで。でもそうすると、それはすべて言葉じゃない「会話」なんだなということに気づくんですよね。それを、子育てを一緒に頑張っている人たちに、絵本を通じてシェアしたいというのがいちばんのところでした。そう思えると、なおさら赤ちゃんをいとおしく感じ、心の折り合いをつけることによって、自分も冷静にまた子育てに向き合えるというか。そんな一冊になるといいな、という思いがありました。子育ての心を整えることとエールを送ることを、まず自分自身に向けてやって、それがなんとなくうまくいったから、みんなで一緒にどう?と発信した感じです。

しんどいこともたくさんあるけど、赤ちゃんとの日々は新しいことの連続!

『あかちゃんはおかあさんとこうしておはなししています』本文画像

 子育ては「ママだけがするものじゃない」とか言われちゃうかもしれないけれど、たいていの場合、生まれた直後の赤ちゃんは、生んだ人のそばにいることが多いですよね。最初は「かわいい」って思う気持ちが大半を占めていても、日々一緒に過ごしていくと夜寝られないとか、なんで泣いているのかわからないとか、それだけではすまないことが出てくるわけです。悩みの連続ですよね。大変とかつらいとか、自分はお母さんに向いていないんじゃないかとか、そんなことを口にしづらいし、頻繁に友達に会いに行くこともできない。もしかしたら、今はSNSとかで気晴らしできるのかもしれないですけど…。

 でも、赤ちゃんたちは確実に日々成長していて、しんどいと思っていたのに、あれ? なんかちょっとラクになった? という瞬間が何度も訪れ、毎日毎日何もかもが新しく刷新されていくんですよね。この絵本の最後のページでは、まだ寝ているばかりでお世話されていた赤ちゃんが、裏表紙では自分の足で立ち上がってお母さんのところに歩いてくる、という様子を描きました。ここからだんだんと親の手を離れて、自分の足で歩いていく…こちらがあわあわしているうちに成長していくんです。

考え方、目線、とらえ方…すべてを私は子どもから教わった気がします

 今上の子は22歳、下の子は15歳になりますが、自分の子育てを振り返ってみると、小学校に入学する前までが、いちばん子育てらしい子育てをしてこれた時期だったかなと感じています。子どもが中学生になって、ひとりの人間として対峙していくと、もう、そちらの方が大変だなと(笑)。子どもが小さいころは、未来は遠いところにあって、いくらでも夢や希望を描いたりしていましたが、中学生や高校生になると、未来が具体化してくるんですよね。そうなると「この子は大丈夫だろうか」「このままだったらこの子は困るんじゃないか」とか、不安や歯がゆさがつきまとってくるんですね。自分の何がいけなかったんだろうかとか、自分のせいでこんな風になっているのかなとも思ったりして…。

『あかちゃんはおかあさんとこうしておはなししています』本文画像

 この絵本を描いたころは、あんなに五感を使って子育てをしていたのに、今は子どもたちと言葉でコミュニケーションをとっていて、何でもかんでも言葉で伝えようと躍起になっているんです。本当だったら、子どもの表情や声のトーンなどいろいろ汲み取りながら、赤ちゃんのときのように言葉だけではなく、五感も駆使してコミュニケーションをとっていく必要があるんだろうなと思います。でも、そういうことを忘れているな、って。

 結局、いつまでが、どこまでが子育てなんでしょうね。ただ、お母さんも一緒に泣きながら必死にやってきた子育てや、この絵本にあるような愛されてきた数々の「お話」は、赤ちゃんの記憶にはなくても、細胞レベルでの記憶には必ずあると思います。本人には気づかないところで、確実に生きていく力になっているんだろうと感じます。今ちょうどそういう時期のお母さんたちは、しんどいかもしれませんが、しんどい分、確実に赤ちゃんたちの生きる力になっているんです。ちょっとだけ先に子育てを経験している私はそう思いますし、そう思っていたほうが子育てに希望をもてると思うんですよね。

 子育てに限らず何事も、いかに自分の脳や気持ちをだましだまし楽しくやっていくかですよね(笑)。つらいつらいと言っていてもつらいだけなので、視点を変えることも大事かもしれません。なんでこんなに泣くんだろうって思ったら、脳が発達してるからかと思うと、もっと泣け泣け、もっと成長していけと思えたり…。そういう感じで考え方や目線、とらえ方をどういうふうに変えていくか。そういうのも全部、私は子どもから教わったんだろうなと思います。

 この先、自分たちの子どもがどんな人になっていくかはわかりません。ただ、いちばんは幸せに生きていってほしいですよね。なおかつ、自分たちも幸せに生きていきたいと思います。子育てしているお父さんやお母さんも、ご自分のことも大事にしながら、大人も子どもも幸せを感じる力を鍛えていきましょう!

ご紹介した本はこちら

あかちゃんは おかあさんと こうして おはなししています

  • 著者:スギヤマカナヨ
  • 定価:990円(本体900円+税)
  • 判型:B5判変型/24ページ

PROFILE

著者近影
スギヤマカナヨ
静岡県三島市出身。東京学芸大学初等科美術卒業。『ペンギンの本』(講談社)で講談社出版文化賞受賞。主な作品に『K・スギャーマ博士の動物図鑑』(絵本館)、『てがみはすてきなおくりもの』『山に木を植えました』(講談社)、『ぼくのおべんとう』『わたしのおべんとう』(アリス館)、『あかちゃんがうまれたら なるなるなんになる?』(ポプラ社)、『ほんちゃん』(偕成社)、「ようこそ! へんてこ小学校」シリーズ(KADOKAWA)、『どんぐりころころ おやまへかえるだいさくせん』『うたう! ももたろう』『あかちゃんはおかあさんと こうしておはなししています』『おふねにのって』(赤ちゃんとママ社)ほか、著作多数。